大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(行ケ)6号 判決

東京都大田区久が原3丁目32番4号

原告

フジコン株式会社

代表者代表取締役

大島要二

訴訟代理人弁理士

鈴木正次

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

服部秀男

八巻惺

幸長保次郎

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第21689号事件について、平成7年11月17日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年8月9日、名称を「端子盤」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願をした(実願昭63-105012号)が、平成4年9月29日に拒絶査定を受けたので、同年11月16日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成4年審判第21689号事件として審理したうえ、平成7年11月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月25日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

導電金具又は導電金具に固着したナットにねじを螺合してなる電線接続具の複数が所定間隔で並列設置された端子盤において、前記ねじの上方と、接続端子挿入側を覆う断面L字状としたねじ脱落防止カバーが取付けられ、該ねじ脱落防止カバーに前記各ねじの頭部と対向して、ドライバー挿通用の透孔が夫々設けられると共に、前記ねじ頭下部の螺子部には、前記透孔より大径の座板が装着してあり、前記ねじの螺子部の長さは、前記座板と導電金具の頂板との間で挾着される接続端子の厚さより長くし、かつねじ脱落防止カバーの下面から、前記ねじの螺子部上端までの距離と同等以下とし、更に、前記ねじの螺子部の長さは、前記ねじ脱落防止カバーの下面から、前記導電金具又は導電金具に固着したナット上端までの距離と同等以上としてあることを特徴とした端子盤。

3  審決の理由

審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願考案は、実願昭56-19988号(実開昭57-133874号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)及び特開昭52-9008号公報(昭和52年7月28日出願公開、以下「引用例2」といい、そこに記載された考案を「引用例考案2」という。)に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、引用例1及び2の各記載事項の認定、本願考案と引用例考案1との各相違点の認定、相違点〈2〉及び〈3〉の判断は、いずれも認める。引用例考案1の上側ワッシャは、ねじ頭下部に摺動不能には装着されておらず、本願考案の座板に相当するものではないから、両者が一致するとする審決の認定は誤りであるが、引用例2の第7図にはねじ頭部の下に押え金が摺動不能に装着される構成が開示されており、この押え金が本願考案の座板と同様の効果を奏するものであることは認める。

審決は、本願考案と引用例考案1との一致点を誤認する(取消事由1)とともに、相違点〈1〉についての判断を誤り(取消事由2)、本願考案の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  一致点の誤認(取消事由1)

本願考案の「ねじ脱落防止カバー」は、端子盤に使用しているねじの脱落を防止できるように透孔の直径、カバーの高さ、座板の外径などが考慮されており、まさにねじの脱落を防止することができる。これに対し、引用例考案1の「保護カバー」は、元来指などが誤って内側に入らないように考慮されたもので、指などが入れないような寸法関係に製造してその侵入を防止するものであって、ねじの脱落防止については全然考慮されていないから、引用例考案1を実施して使用しても、ねじの脱落は防止できない。

したがって、引用例1の保護カバーが、本願考案のねじ脱落防止カバーに相当する(審決書6頁13~16行)との審決の認定は誤りである。

2  相違点〈1〉についての判断の誤り(取消事由2)

引用例2(甲4号証)には、「端子金具1を合成樹脂製の器台15とカバー16とで構成した本体17内に収納し」(同号証2頁右上欄1~2行)と記載されているように、引用例考案2の端子装置におけるカバー16は、器台15と協同して端子金具1又は端子板20を固定する機能を有しており、本体17の一部として物品自体を構成するカバーであって、それなしでは端子装置を使用することが困難であるから、いわゆる物品を覆うカバーとは異なっている。

そうすると、本願考案のようなねじの脱落防止という技術思想を欠き、物品を覆う保護カバーにすぎない引用例考案1に対し、ねじの脱落防止の観点から、引用例考案2の物品自体を構成するカバーを組み合わせることは、きわめて容易とはいえない。

したがって、審決が、相異点〈1〉について、「引用例2には、締付ネジのネジ部が端子金具のネジ孔のネジ部より解放した際、該締付ネジ頭部がドライバー挿入孔の障害部に当たり、而も締付ネジがネジ孔より外れないままで空回りする様にした端子装置・・・が記載されているから、前記相異点〈1〉の構成とすることは、格別の考案力を要せずして、当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことといえる」(審決書7頁17行~8頁8行)とし、引用例考案1に引用例考案2を応用することは容易であると判断したことは、誤りである。

3  顕著な作用効果の看過(取消事由3)

以上のとおり、本願考案は、引用例考案1及び2にはない、物品を覆うカバーによるねじの脱落防止という顕著な作用効果を有するものである。

したがって、審決の「明細書に記載された本願考案の効果も、引例例1、2に記載されたものから当然予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。」(審決書9頁2~4行)との判断は、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。なお、引用例考案1の上側ワッシャは、ねじ頭下部に摺動不能には装着されておらず、本願考案の座板に相当するものではないから、両者が一致するとする審決の認定が誤りであることは認めるが、引用例2の第7図にはねじ頭部の下に押え金が摺動不能に装着される構成が開示されており、この押え金は本願考案の座板と同様の効果を奏するものであるから、引用例考案1及び2に基づいて、当業者が本願考案をきわめて容易に考案をすることができたとする審決の判断に、誤りはない。

1  取消事由1について

引用例考案1の「保護カバー」は、ねじの上方と接続端子挿入側を覆う断面L字状のものであって、その構造からねじがカバーの外に落ちたりして紛失することはなく、ねじの紛失を防止できる機能を有することが明らかであり、「ねじ脱落防止カバー」であるといえる。

したがって、引用例考案1の「保護カバー」は、本願考案の「ねじ脱落防止カバー」に相当するものであり、両者が「前記ねじの上方と、接続端子挿入側を覆う断面L字状としたねじ脱落防止カバーが取付けられ、該ねじ脱落防止カバーに前記各ねじの頭部と対向して、ドライバー挿通用の透孔が夫々設けられる」(審決書6頁19行~7頁2行)点で一致するとした審決の認定に、誤りはない。

2  取消事由2について

本願考案と引用例考案2とを対比すると、引用例考案2の「端子金具」、「締付ねじ」、「ドライバー挿入孔」、「押え金」は、本願考案の「導電金具」、「ねじ」、「ドライバー挿通用の透孔」、「透孔より大径の座金」にそれぞれ相当するから、引用例考案2を本願考案の構成に即して表現すると、引用例2には、「ねじ頭下部にはドライバー挿通用の透孔より大径の座板がねじに対して回転自在である一方、摺動不能に装着してあり、ねじのねじ部の長さは、ドライバー挿通用の透孔の障害部の下面から、導電金具のねじ部上端までの距離と同等以下とし、さらに、前記ねじ脱落防止カバーの下面から前記導電金具上端までの距離と同等以上とした」構成が記載されているということができる。

そして、引用例考案1においては、工具の先端を通す開孔、すなわちドライバー挿通用の透孔は、保護カバー、すなわちねじ脱落防止カバーに設けられているが、引用例考案2の構成を適用するに際して、「ドライバー挿通用の透孔の障害部の下面」とは「ねじ脱落防止カバーの下面」に対応するものとして直ちに把握できるから、引用例考案2に開示された上記構成を適用することは、当業者がきわめて容易に想到できる程度のことである。

また、引用例2の第7図に記載されたものにおいては、導体の接続という端子装置の機能は、締付ねじ4を回転させ、接続すべき導体を押え金22と平板状の端子金具1とで挾着することにより実現されるのであり、当該機能の実現については、カバー16は何ら寄与しないものである。したがって、当該カバー16は、「端子装置」という物品自体を構成するに必要不可欠なものではなく、まさに、物品を覆うという字義どおりのカバーであるといえる。

したがって、原告の、引用例考案2のカバーは物品を覆うカバーでなく、物品自体を構成するものである旨の主張は、失当である。そして、引用例考案1の保護カバーも、物品を覆うものであるという点で、引用例考案2のカバーと共通するものであるから、引用例2の第7図記載のものの構成を引用例考案1に適用することに格別の困難性はなく、当業者がきわめて容易にできる程度のことであり、この点についての審決の判断(審決書7頁17行~8頁8行)に誤りはない。

3  取消事由3について

本願考案の効果は、引用例考案1及び2から当然予測できる程度のものであり、格別のものとはいえないから、審決の判断(審決書9頁2~4行)に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点の誤認)について

本願考案の要旨及び審決の引用例1の記載事項の認定は、当事者間に争いがない。

本願明細書(甲第2号証の1~4、)には、その実用新案登録請求の範囲に、「ねじの上方と、接続端子挿入側を覆う断面L字状としたねじ脱落防止カバーが取付けられ」(甲第2号証の2明細書1頁5~6行)と記載され、その考案の詳細な説明には、「この考案は、導電金具にねじを螺合してなる電線接続具が設けられた端子盤に関し、弛めたねじが脱落するのを防止したものである。従来、・・・導電金具にねじを螺合してなる電線接続具が設けられた端子盤では、ねじを弛めて、導電金具との螺合を解くと、ねじはフリーの状態となり、脱落したり、紛失するおそれがあった。」(同1頁17~22行)、「ねじの脱落や紛失を防止した端子盤は、コイルスプリングやつる巻バネを使用する為、端子盤の製造時の組立工数が多くなると共に、前記つる巻バネで弾持する金具等、部品点数も多くなる問題点があった。・・・そこでこの考案は、端子盤本体の上部に、ねじ脱落防止カバーを取付け、ねじの頭部に座板を装着し、該座板を、ねじの頭部外側に設けたねじ脱落防止カバーに掛止するようにして、ねじの脱落を防止したので前記問題点を解決した。」(同2頁3~13行)との記載がある。

本願考案の要旨及び本願明細書の上記記載と図面第1~第5図(甲第2号証の1~4)によると、本願考案は、製造時の組立工数や部品点数を多くすることなくねじの脱落や紛失を防止した端子盤を提供すること等を技術課題とするものであり、本願考案のカバーは、上面に透孔を設け、ねじの上方と接続端子挿入側を覆う断面L字状をなした構造を有しており、導電金具又は導電金具に固着したナットとの螺合を緩めた場合にも、ねじがねじ孔かう脱落しないようにして、その紛失を防止するために設けられたものと認められる。

一方、引用例1(甲第3号証)には、保護カバー付端子盤の考案が開示され、これにつき、「この端子台1の角部の接続具5を囲んで両端のリブ4にネジ6により取付けられた透明の保護カバー7をそなえている。」(同号証2頁7~9行)と記載され、その第1図、第2図には、上面に透孔を設けた断面L字状の構造を有し、端子盤に螺合されたねじの上方と接続端子挿入側を覆う形状で端子盤の上部に取り付けられた態様のものが図示されていることが認められるから、その構造及び形状からみて、引用例考案1の保護カバーは、ねじが端子盤のねじ孔からはずれた場合にも、端子盤の外に脱落し紛失することを防止する機能をも有することは、当業者が当然に理解できることと認められる。

したがって、引用例考案1のカバーと本願考案のカバーとは、同様の構造・形状を有し、その機能においては、ねじが端子盤のカバー内部から外部に脱落することを防止するという点において共通するものと認められるから、引用例考案1の「保護カバー」が本願考案の「ネジ脱落防止カバー」に相当するとの審決の認定(審決書6頁14~16行)は、この限度において、正当として維持できるものというべきである。

原告の取消事由1の主張は採用できない。

2  取消事由2(相違点〈1〉の判断の誤り)及び同3(顕著な作用効果の看過)について

本願考案が、本願考案の要旨に示されるとおり、ドライバー挿通用の透孔を設けたねじ脱落防止カバーと、ねじ頭下部に装着された透孔より大径の座板と、ねじのねじ部の長さが「ねじ脱落防止カバーの下面から、ねじの螺子部上端までの距離と同等以下とし、更に、前記ねじ脱落防止カバーの下面から、前記導電金具又は導電金具に固着したナット上端までの距離と同等以上」であるという構成を有し、これら各構成により、当該ねじのねじ孔からの脱落を防止するものであること、引用例考案1には、上記ねじのねじ部の長さについての記載がなく、その点において本願考案と相違し(相違点〈1〉)、かつ、引用例考案1の上側ワッシャは、ねじ頭下部に摺動不能に装着されておらず、本願考案の座板に相当するものではないから、両者が一致するとする審決の認定(審決書6頁14~16行)は誤りであり、本願考案と引用例考案1とは、この点においても相違することは、当事者間に争いがない。

これらの相違点に係る構成について、引用例2(甲第4号証)をみると、引用例2には、「端子装置」の発明が開示され、これにつき、「締付ネジのネジ部がネジ孔のネジ部より解放した際、該ネジ頭部がドライバ挿入孔の障害部に当たり、而もネジがネジ孔より外れないで空回りする様にしたことを特徴とした箱型端子装置であつて、これによりネジを緩めた場合もネジがネジ孔より脱落せず」(同号証1頁右下欄9~14行)、「端子金具1を合成樹脂製の器台15とカバー16とで構成した本体17内に収納し、且つカバー16にドライバー挿入孔7を設け、障害部8はカバー16自身としている。・・・第7図はネジ頭部5の下に締付ネジ4と伴つて上下動する押え金22を障害部8に当てたものであり」(同号証2頁右上欄1~12行)との記載があることが認められ、その第7図には、ねじ頭部の下に押え金が摺動不能に装着される構成が開示されており、この押え金が、本願考案の座板がカバーの透孔縁と当接してねじの脱落を防止するという効果と同様の効果を奏するものであることは、原告の認めるところである。

そして、引用例考案2において、本願考案のように締付ねじのねじ頭部の下までねじ部を設けるとすると、その場合のねじ部の長さは、技術常識上当然、障害部であるカバーの下面から、端子金具のねじ孔のねじ部上端までの距離と同等以下となり、前記カバーの下面から端子金具の上端までの距離と同等以上となることは当業者にとって自明のことと認められる。

そうすると、引用例考案2の端子装置は、本願考案と同様に、ねじのねじ孔からの脱落防止という課題を有し、その課題解決のために、ドライバー挿通用の透孔を設けてねじ頭上部を覆うカバーと、ねじ頭下部に摺動不能に装着されたその径が透孔の径より大径の押え金と、ねじのねじ部の長さが相違点〈1〉に係る本願考案の前示構成を有するものであり、この構成により、当該ねじのねじ孔からの脱落防止という効果を達成できるものと認められる。

原告は、本願考案のようなねじの脱落防止という技術思想がない引用例考案1に、引用例考案2の物品自体を構成するカバーを組み合わせることはできないと主張する。

しかし、前示認定の事実によれば、引用例考案1及び2は、ともに端子装置に関する考案であり、引用例考案1のカバーがねじの紛失の防止の機能を有し、この機能において、引用例考案1と引用例考案2とは共通するものであり、かつ、引用例考案2のカバーは、本願考案及び引用例考案1のカバーと同様に、透孔を有し、ねじ頭上部及び接続端子挿入側を覆うものであって、押え金と平板状の端子金具との挾着による導体の接続には直接関与するものでないから、引用例考案1と引用例考案2は、カバーを有する端子装置として共通するものであることが認められる。

そうすると、引用例考案1に引用例考案2に開示されたカバー、押え金、特定のねじ部の長さを有するねじという上記構成を採用することは、当業者がきわめて容易に想到できるところと認められ、原告の上記主張は理由がなく、また、原告が本願考案の顕著な効果として主張する物品を覆うカバーによるねじの脱落防止という効果も、引用例考案1に引用例考案2を適用することから当然に予測できる効果にすぎないことは、前示のところから明らがである。

したがって、審決の相違点〈1〉及び効果についての審決の判断(審決書7頁17行~8頁8行、9頁2~4行)に誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成4年審判第21689号

審決

東京都大田区久が原3丁目32番4号

請求人 フジコン 株式会社

東京都新宿区信濃町29番地 徳明ビル 鈴木正次特許事務所

代理人弁理士 鈴木正次

昭和63年実用新案登録願第105012号「端子盤」拒絶査定に対する審判事件(平成2年2月22日出願公開、実開平2-27665)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1. 本願は、昭和63年8月9日の出願であって、その実用新案登録を受けようとする請求項1に係る考案(以下「本願考案」という。)は、平成7年10月9日付け手続補正書によって補正された明細書及び平成1年10月9日付け手続補正書並びに平成4年1月8日付け手続補正書によって補正された図面の記載からみて、

「導電金具又は導電金具に固着したナットにねじを螺合してなる電線接続具の複数が所定間隔で並列設置された端子盤において、前記ねじの上方と、接続端子挿入側を覆う断面L字状としたねじ脱落防止カバーが取付けられ、該ねじ脱落防止カバーに前記各ねじの頭部と対向して、ドライバー挿通用の透孔が夫々設けられると共に、前記ねじ頭下部の螺子部には、前記透孔より大径の座板が装着してあり、前記ねじの螺子部の長さは、前記座板と導電金具の頂板との間で挾着される接続端子の厚さより長くし、かつねじ脱落防止カバーの下面から、前記導電金具又は導電金具に固着したナットの螺子部上端までの距離と同等以下とし、更に、前記ねじの螺子部の長さは、前記ねじ脱落防止カバーの下面から前記導電金具又は導電金具に固着したナット上端までの距離と同等以上としてあることを特徴とした端子盤。」

であるものと認める。

なお、実用新案登録請求の範囲には「前記ねじの螺子部の長さは、……ねじ脱落防止カバーの下面から、前記ねじの螺子部上端までの距離と同等以下とし、」と記載されているが、ねじは上下動するものであり、ねじの螺子部上端の位置を特定することはできず、考案の詳細な説明中の「前記ねじ3の螺子部3aの長さは、ナット7の螺子部7aの上端からねじ脱落防止カバー4の下面までの距離と略等しくしてあり、」(3頁25~26行目)、「ねじの螺子部の長さをねじ脱落防止カバーの下面から電線接続具の螺子部上端までの距離と同等以下としたので、ねじを弛めた場合にねじ脱落防止カバーを押し上げるのを避けることができる」(5頁5~7行目)の記載からみて、「ねじの螺子部上端」は「導電金具又は導電金具に固着したナットの螺子部上端」の誤記と認め、請求項1に係る考案を前記のとおり認定した。

2. これに対して、当審で平成7年7月21日付けで通知した拒絶の理由に引用された実願昭56-19988号(実開昭57-133874号)のマイクロフィルム(昭和57年8月20日特許庁発行、以下「引用例1」という。)には、

「端子台と、この端子台の上面と側面にまたがる凹所に設けられ上面から操作される電線の接続具と、前記端子台の凹所を囲んで取付けられた前記端子台の側面との間に電線を差込む隙間を有する保護カバーとをそなえ、この保護カバーの前記接続具に対応する上面に工具の先端を通す開孔または切欠きが設けられていることを特徴とする保護カバー付端子盤。」(実用新案登録請求の範囲参照)、

「上面2と側面3にまたがる角部にリブ4で区画されて設けられた電線接続具5」(2頁5~7行目参照)、

「接続具5は端子台1の上面から操作されるネジ8とワッシャ9からなり、」(2頁9~11行目参照)、

「ネジ8の上方と、電線挿入側を覆う断面L字状とした保護カバー7」(第1図、第2図参照)、「ネジ頭下部に電線14の先端を挟んで装着した、開孔11より大径の上下のワッシャ9」(第2図参照)

が記載されている。

また、同じく引用された特開昭52-90084号公報(昭和52年7月28日出願公開、以下「引用例2」という。)には、

「端子金具に締付ネジを進退自在に螺合し、更に締付ネジが操作できる縦孔と、金具の側部に位置する導体引入口とを形成した器台に該端子金具を装備し、締付ネジのネジ部が端子金具のネジ孔のネジ部より解放した際、該締付ネジ頭部がドライバ挿入孔の障害部に当たり、而も締付ネジがネジ孔より外れないままで空回りする様にしたことを特徴とした箱型端子装置。」(特許請求の範囲参照)

が図面とともに記載されている。

3. 引用例1の前記記載からは、「下側のワッシャにネジを螺合してなる電線接続具の複数が所定間隔で並列設置された端子盤において、前記ネジの上方と、接続端子挿入側を覆う断面L字状とした保護カバーが取付けられ、該保護カバーに前記各ネジの頭部と対向して、ドライバー挿通用の開孔が夫々設けられると共に、前記ねじ頭下部には、前記開孔より大径の上側のワッシャが装着してあることを特徴とした端子盤」が把握される。

そこで、本願考案と引用例1に記載されたものとを対比すると、引用例1の「下側のワッシャ」、「保護カバー」、「開孔」、「上側のワッシャ」は、本願考案の「導電金具」、「ネジ脱落防止カバー」、「透孔」、「座板」に相当するから、両者は「導電金具にねじを螺合してなる電線接続具の複数が所定間隔で並列設置された端子盤において、前記ねじの上方と、接続端子挿入側を覆う断面L字状としたねじ脱落防止カバーが取付けられ、該ねじ脱落防止カバーに前記各ねじの頭部と対向して、ドライバー挿通用の透孔が夫々設けられると共に、前記ねじ頭下部には、前記透孔より大径の座板が装着してあることを特徴とした端子盤。」である点で一致し、本願考案は、〈1〉ねじの螺子部の長さは、ねじ脱落防止カバーの下面から、導電金具の螺子部上端までの距離と同等以下とし、更に、前記ねじ脱落防止カバーの下面から前記導電金具上端までの距離と同等以上としてある点、〈2〉ねじの螺子部の長さは、座板と導電金具の頂板との間で挾着される接続端子の厚さより長くしてある点、〈3〉座板がねじ頭下部の螺子部に装着してある点を構成要件とするのに対し、引用例1には、これらの事項が記載されていない点で相違する。

4. 前記相違点について以下検討する。

(1) 相違点〈1〉について

引用例2には、締付ネジのネジ部が端子金具のネジ孔のネジ部より解放した際、該締付ネジ頭部がドライバ挿入孔の障害部に当たり、而も締付ネジがネジ孔より外れないままで空回りする様にした端子装置、すなわち、締付ネジのネジ部の長さは、障害部の下面から、端子金具のネジ部上端までの距離と同等以下とし、更に、障害部の下面から端子金具上端までの距離と同等以上とした端子装置が記載されているから、前記相違点〈1〉の構成とすることは、格別の考案力を要せずして、当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことといえる。

(2) 相違点〈2〉について

ねじの螺子部の長さを、座板と導電金具の頂板との間で挾着される接続端子の厚さより長くすることは、接続端子を挾着するためには、当業者が当然考慮する程度の事項であり、前記相違点〈2〉の構成とすることに、格別の考案があるものとはいえない。

(3) 相違点〈3〉について

明細書の記載をみても、本願考案において、座板がねじ頭下部の螺子部に装着してある点に格別の技術的意義があるものとは認められず、前記相違点〈3〉は、当業者が設計上適宜なし得る程度の変更にすぎない。

そして、明細書に記載された本願考案の効果も、引用例1、2に記載されたものから当然予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

5. したがって、本願考案、すなわち請求項1に係る考案は、引用例1、2に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年11月17日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例